前エントリーの続きにゃ。もうこの前の日曜日、「GCMふくしま」で、早野先生や野尻先生によって、WBCによる「内部被曝量」や「内部被曝より外部被曝が高い」「むしろ外部被曝を気にするべき」といった話があったので、もう「いまさら」感もあるが、乗りかかった船ということで。
素晴らしい「GCMふくしま」については、
ガイガーカウンターミーティング(GCMふくしま)2012/7/15福島会場
http://togetter.com/li/338909?f=reco1ガイガーカウンターミーティング(GCMふくしま)2012/7/16郡山会場
http://togetter.com/li/339369リーフレインさんのまとめ
http://togetter.com/li/338614http://togetter.com/li/338781早野先生のスライド
http://www.slideshare.net/RyuHayano/gcm-2012716そしてKさんの「Maybe Blue GCMふくしまメモ(工事中)」、とても見やすいです。
http://leika7kgb.blog114.fc2.com/blog-entry-816.html#moreというわけで、今や早野先生のスライドのタイトル「ここはチェルノブイリではない 福島のデータをしっかり見よう」につきる。最近、福島の街、残った人の雰囲気も大分変わってきた。それは「反原発」の連中が言うような、「あきらめ」といった感情ではない。福島の被曝の実態がデータとして上がってきて、それがマスゴミ等が騒いだ、チェルノブイリのようなものではなかった。去年のあの酷いデマが飛び交う中でも、我々はここに残ることを選んだ。感情的なパニックや、脊椎反射的行動はとらない。事実を落ち着いて受け止めるだけだ。
もう少しだけ、「チェルノばなし」続けるにゃ。本来前エントリーの追記だが、長くなるのでここで。なお今回の被曝量=○○SVは、全て甲状腺等価線量。また元の文のGyは大方SVにしてある(1Gy≒1SV)。
(追記7/23) なおここから先はあまりにも長くややこしいので、最後に追記した「まとめ」だけ読んでも大丈夫です。前エントリーの中で、
(新聞等で)
時々、「甲状腺が50mSVの被曝を受けると、ガンになりやすくなる」といった記述を見かける。何を根拠、基準にしているのか知りたい。と書いたが、この「根拠」は、田崎教授も触れていた、P.Jacob先生らの1999年論文
Childhood exposure due to the Chernobyl accident and thyroid cancer risk in contaminated areas of Belarus and Russiahttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2363070/pdf/80-6690545a.pdfだ。
原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第30回会合 議事次第
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun030/hibakubun-030.htm にある
安定ヨウ素剤予防服用の一般的基準 (50 mSv) の根拠について
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun030/ssiryo1.pdfは、前エントリーにもリンクしていたが、後半はちゃんと見ていなかった。ここの3ページには、IAEAの
GSG-2(IAEA安全基準)=「安定ヨウ素剤投与=甲状腺等価線量が7日間で50mSVと予想される場合」とした根拠が、「この数値の根拠となった論文の概要を次ページから示す」として、書いてある。なお、このIAEA基準は、「小児」に限っていない。
チェルノブイル小児甲状腺がん疫学調査論文概要
Childhood exposure due to the Chernobyl accident and thyroid cancer risk in
contaminated areas of Belarus and Russia.(チェルノブイル事故によるベラルーシとロシアの汚染地域における小児被ばくと甲状腺がんリスク)
P. Jacob, Y. Kenigsberg, I. Zvonova, G. Goulko, E. Buglova, W.F. Heidenreich, A.
Golovneva, A.A. Bratilova, V. Drozdovitch, J. Kruk, G.T. Pochtennaja, M. Balonov, E.P.
Demidchik and H.G. Paretzke(British Journal of Cancer (1999) 80(9), 1461–1469 の仮訳)
チェルノブイル事故により放出されたヨウ素131 による甲状腺線量について、ベラルーシの2市の2122 名、ロシアのブリヤンスク区1 市の607 名の子供と十代の青年において再評価された。事故後の2 か国の2 か所の高汚染スポットを含むこの地域において、1991-1995 年の期間の甲状腺がん誘発率のデータについて、甲状腺検査の増加を考慮して解析された。2種類のリスク解析方法が適用された。すなわち、単一集団についてのポアソン回帰解析と、より大きな地域あるいは部分母集団に関するモンテカルロ計算解析である。両方法の最適推定値はよく一致した。ポアソン回帰で推定した95%信頼区間はモンテカルロ計算結果よりも相当小さく、それは、再評価した線量と甲状腺がん誘発率のバックグラウンドに起因するポアソン分布以外の不確かさを考慮したものである。1971-1985 年に出生したコホート(被ばく時年齢が1~15歳)において、モンテカルロ解析による甲状腺の単位線量あたりの過剰絶対リスクは、10000人(原文は10の4乗)・年Gy あたり2.1 例(95%信頼区間が1.0-4.5)であった。リスクの推定値は、外部被ばくによる甲状腺がんリスクのプール解析において得られた値の二分の一であった。甲状腺単位線量あたりの過剰相対リスクは、1Gy あたり23(95%信頼区間が8.6-82)であった。国あるいは都市と農村地域の間で差異は見られなかった。平均甲状腺線量が0.05Gy である最も線量の低い集団において、甲状腺がんのリスクは統計的に有意に上昇した。そのリスクの被ばく時年齢及び性別の依存性については、外部被ばくによるものと一致していた。ポワソンとかモンテカルロとか、何やら美味しそうな名前が並ぶけど、統計学の用語らしいにゃ。コホートは「共通因子がある集団」。過剰絶対リスク(EAR)と過剰相対リスク(ERR)は田崎先生の
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/thyroid.html 参照。
また
「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第29回会合 議事次第」
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/hibakubun-029.htm にある、
安定ヨウ素剤の予防的服用に関する提言(案)
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/siryo2-6.pdf 8ページには、
(イ) 服用指示の ための一般的基準
安定ヨウ素剤の投与・服用に係る 安定ヨウ素剤の投与・服用に係る EAL や OILの設定基準として、従来と同様に、小児の甲状腺等価線量を使うことは適切である。IAEA が GSG-2などで示した一般的 基準(Generic Criteria)の例である、最初の7日間 (プルームの最初放出から7日間)で小児甲状腺等価線量(実際に は幼児を対象としている)について 50mSvという値は適切と考える。 海外諸国においては、WHOの勧告 の勧告に基づき、小児甲状腺等価線量で10mSv(あるいは10mGy)を設定している例もある。WHOは、小児甲状腺 がんの偶発的発生率と比較して、放射線による小児甲状腺がん発症リスクを容認できる適度に抑えるには、従来の基準(100mGy)の十分一程度が適当と考えられることから10mGyを提言した。しかしながら、その後IAEAは、ロシアとベラルーシの疫学調査において、甲状腺等価線量あたりのがん過剰絶対リスクがゼロと明らかに異なる線量グループの最小値が50mGyであると報告されたことから、この数値をGSG-2の一般的基準に採用した。GSG-2の作成 には WHOも参画しており、こちらに示された数値を使うことは適切と考える。とあり、WHOの安定ヨウ素剤投入基準=小児甲状腺等価線量10mSVだったが、それはJacob先生らの研究が出る前の、いささか古い、安全マージンの多いものだったこと、また基準=50mSVの策定にWHOが参加していたことが示されている。従って今、「WHOの基準では10mSVだからそれを超えると甲状腺ガンになる!」と騒ぐ根拠はない。そもそもLNT仮説では、10mSVでもガンは増える。
なお、「がん過剰絶対リスクがゼロと明らかに異なる線量グループの最小値が50mGyである」はやや危ない表現だにゃ。「グループの平均値の最小値が50mGy(=mSV)」としないと、「50mSVから発ガンした!」となりやすい。また前エントリーでリンクした「第31回会合」の資料では、「その後IAEAは、ポーランドの疫学調査において」となっているが、これは単なるまちがいだと思う。なぜかこの部分は「第30回」以後、「ポーランド」になっている。またIAEA基準が、「小児」限っていないことについては、第31回で協議されている。新基準の文言は「小児」ではなく大人も入れるのかもしれない。放射線の子どもへの影響は大人の2~3倍とかなので、子どもを基準にして安全策をとればいいという話か?
(余談ですが)
ちなみに1986年のチェルノブイリ事故の3日後、ポーランドの11の県では、16歳以下の甲状腺被曝が50mSVを超えることが予測され、実際に安定ヨウ素剤が1750万錠配布された(16歳以下の95%に配布された。また大人にも)。
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun031/siryo3-2.pdfこの資料は安定ヨウ素剤の副作用についてのものだが、ここから判ることは、当時のポーランドの状況が、去年3月事故後の福島に似ていたかもしれない、ということだ。ポーランドでの予測が、50mSVを超えてどの位だったのか、またその計算は24時間外出と仮定したのか、8時間か、空間線量率のヨウ素の寄与をどの位と見たか、等の計算式が判らないし、また福島では現在甲状腺被曝=50mSVに達した例がないので、福島はもう少しマシなのかもしれないが。チェルノブイリからポーランド国境までは約500キロのようだが、元々の事故の規模が違い、また風向き等の不確定要素があるので、距離は意味をなさない。よって福島をチェルノブイリ(ウクライナ、ベラルーシ)と比較するより、ポーランドと比べる方が、まだ現実的なように見える(もちろん様々なデータで確認しなければばならない)。
ポーランドで「鼻血」や「原爆ぶらぶら病」が出たか?奇形の出産が増加したか?甲状腺ガンが増加したのか(これは「増えた」という資料は見つからない。住民の話等をネタに甲状腺障害等が増えている、と伝えたメディア記事はあるようだが、メディアはもちろん信用できない。少人数の伝聞も信用できない。増えたなら、安定ヨウ素剤は効かないことになる。)除染はムダなのか?セシウム土壌汚染はどうなったのか?セシウムが風で舞い上がって内部被曝したのか?内部被曝はそんなに多く、外部被曝よりはるかに危険だったのか?農業はどうなったのか?・・・・。
P.Jacob先生らの1999年論文
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2363070/pdf/80-6690545a.pdfに戻るが、これの1464ページ(と言っても4ページ目)のtable6では、100mSv以下の甲状腺被曝(等価線量)した1756人(平均被曝量は50mSV)中38人が、1991 年から95年の間に、甲状腺ガンになった。これがもし被曝なしの場合は、16人であるはずで(これは1983~87年における、同じ年齢層=10~20歳の調査)、このことから過剰絶対リスク(EAR:上乗せリスク)=2.6人(10000人あたり、一年あたり、1グレイ被曝につき)と計算されている。もちろん「信頼区間」があり、0.5~6.7である。またこの集団の平均値が50mSVなので、「50mSV以上被曝すると、甲状腺ガンが増える」とは言えない。「等価線量100mSV以下で、平均50mSVの甲状腺被曝でも、甲状腺ガンの発症増加はあった」である。よく考えると、LNT仮説に従えば「閾値」はない。それが数値データとして確認されただけかもしれない。
注意したいのは、世界的に調整された年間の甲状腺ガン発生率は、男性 10 万人当たり 1-2人、女性 10 万人当たり2-8人だそうだが、この研究は、1971–1985生まれ、つまり当時1~15歳が対象というところ。この年齢層の被曝は影響が大きく、早く出るのだろう。またここで調査対象となった1756人は、「全ての100mSV以下被曝した人」ではない。従って単純な「100mSV以下では38/1756=ガン発症率」とはならない。
また1466ページのfigure3からは、等価線量50mSVの被曝=この1756人集団の平均値で、10000人あたり、一年あたりの過剰相対リスクは0.1(=10のマイナス一乗)人をちょっと上回る程度なことがわかる。ちなみにこのグラフの縦軸は、目盛りの数字の上半分が間違っていて、本当は上から10の二乗、10の一乗なのだと思う。
これが恐らく前回エントリーで書いた、学習院大 田崎教授のJacob先生らの論文についての結論、
「ベラルーシとウクライナでのデータを解析した結果、Jacob らは、子供のころに甲状腺への被ばくを受けると、それによってその後の甲状腺ガン発症のリスクが 甲状腺等価線量 1 Sv の被ばくに対して、年間、1 万人あたり 2.3 名」(注:上昇する、これはEAR=過剰絶対リスクである)
これは明らかに疫学的データに基づく結果で、1SV=1000mSVである。
これが単純にLNT的に比例するとすれば(成り立つ可能性は別として)、今回仮に最大等価線量=50mSVと多めにした場合、年間10万人あたり1~1.5人に発症。しかし50mSVの人が10万人もいるわけないのである。 (細かく書くと1.15人に発症。これも過剰する、上乗せ分である。)
の詳細なわけであり(EARは田崎先生=2.3と、論文table6=2.6、さらには「概要」=2.1がちょっとずつ違っているけどね。これは、2.3は1Svを含む平均1.4Svグループ、2.6は平均50mSVグループの生データ。2.1は全体共通の調整後「結論」だからだ)、LNTは成り立っているように見える。これがこれまでの安定ヨウ素剤配布基準=100mSVだと、年間10万人当たり2.3人(あるいは2.1か2.6人)の過剰発症=上乗せである。
「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第31回会合 速記録」
http://www.nsc.go.jp/senmon/soki/hibakubun/hibakubun_so31.pdf 38ページには、安定ヨウ素剤の配布基準について、
伴委員:結局、今まで100でやっていたのを変える、なぜ変えるのかという話になると思いますので、そこのところですね。100ではまずかったから50にするんですということではないというところは、はっきりさせなければいけないと思うんです。そもそも50という値も、Jacobたちの論文でそれぐらいで有意差が出ているよと言っているわけですけれども、あれも個々人のレベルの線量を評価しているわけではないので、果たしてどの程度のものかという、そういう見方もあるわけですね。だから、そうした時に、100でいけないわけでもない、でも50という線もある、10という線もあるんだけれども、下げてもいいかなというのは、要は安定ヨウ素剤の副作用というのが、ポーランドの調査なんかを見てもそれほど大きくはなさそうだから、万全を期して、国際的なハーモナイゼーションも考えた時に、あえて100にこだわる必要はないのではないかという、そういうロジックではないかと私は理解しています。とあるが、確かに「甲状腺等価線量50mSV被曝で、(急に)甲状腺ガンが増える(ことが新たに発見された)」ではない。ここのところを注意して、マスゴミにだまされないようにしよう。なお安定ヨウ素剤は、ポーランドでは甲状腺被曝量を大体半減させる効果があった、というような記述をどこかで見かけたが、詳細不明。効き目については、ヨウ素欠乏症の問題もある。
なお、「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第29回会合」の資料
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/siryo2-4.pdfはこれまでのチェルノブイリの甲状腺ガンの研究例を7つ並べていて、それぞれの過剰絶対リスク=EAR、過剰相対リスクERRが掲載されている。全て小児期(と書いてありますが、実際は18歳までの若年のようです)での被曝の研究で、大変興味深い。EARは1.5~4.4の範囲だ。ERRは4.5~23だが、やや不思議なのは、Jacob先生らの2つの研究(上記1999年、及び2006年)だけが、ERRの値が一桁大きいことだ(23、18.9)。過剰絶対リスクはそんなに変わらないので、何か理由があるのだろうが、よくわからない。正直言って、ERRの場合、単に「1グレイあたり」となっているが、その意味がよくわからないのだにゃ。文系ノラネコじゃあね。だからEAR主体に書きます。
この中では一番新しいAlina V. Brenner先生らの2011年論文
I-131 Dose Response for Incident Thyroid Cancers in Ukraine Related to the Chornobyl Accidenthttp://ehp03.niehs.nih.gov/article/info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.1002674は、
ウクライナの事故当時18歳以下の12514人を調査対象にしている。また事故後に12歳から40歳に到達した人も対象にしている。最新データは2007年のスクリーニングらしい。
dose estimates Data were cross-classified by age at exposure (from 0 to 18 years in 2-year intervals), attained age (from 12 to 40 years by 2-year intervals), dose estimates (< 0.05, 0.05–0.09, 0.1–0.29, 0.3–0.49, 0.5–0.69, 0.7–0.99, 1.0–1.49, 1.5–1.99, 2.0–2.49, 2.5–2.99, ≥ 3.0 Gy), and calendar time intervals (1998–2008 in 1-year intervals).なので、福島の場合に一番知りたい、18歳以下の若年層と、被曝量100mSV以下の2グループ(50mSV以下 50~90mSV ただしGyで小数点以下2桁までなので、1mSvレベルの差は無視しているのかもしれない)が設定されている。しかこれら各被曝線量における細かいデータは出ていない。恐らく結論として出たEAR=2.21、ERR=1.91と何ら矛盾する点は無いのだろう。この研究の結論は、「事故後20年経ってもこれまでの研究で得られたようなリスクが同じようにある」ということのようだ。つまり、これまでの研究は肯定されている。
またElein Ron先生らによる1995年論文
Thyroid Cancer after Exposure to External Radiation: A Pooled Analysis of Seven Studieshttp://www.rrjournal.org/doi/abs/10.2307/3579003?journalCode=rare には、
For persons exposed to radiation before age 15 years, linearity best described the dose response, even down to 0.10 Gy. =15歳以下で被曝した人について、被曝量に対する直線的関係(リニア、つまり発症は被曝量に直線的に比例する)が、0.1グレイ(=100mSV)より低くても当てはまる。
The thyroid gland in children has one of the highest risk coefficients of any organ and is the only tissue with convincing evidence for risk at about 0.10 Gy.=子供の甲状腺はどの器官よりも高率のリスクを持ち、およそ0.1グレイ(=100mSV)で、リスクについて説得力ある証拠を示す、唯一の組織である。
と書いてある。これが先のP.Jacob先生らの1999年論文で、平均50mSVになったということか。
Elisabeth Cardis先生らの2006年論文、
Cancer consequences of the Chernobyl accident:20 years onhttp://depts.washington.edu/epidem/Epi591/Spr09/Chernobyl%20Forum%20Article%20Cardis%20et%20al-1.pdf134ページ(8枚目)には、チェルノブイリ事故の甲状腺ガンの、95年から2006年までの6つの研究の比較が載っている。ここにはEARではなく、ERRしか出ていないが、その範囲は5~18.9だ。この最大値は前に書いたJacob先生らの2006年研究だ。
Cardis先生と言えば、リーフレインさんが「まとめ」をしていた。
http://togetter.com/li/270492これは2005年論文
Risk of Thyroid Cancer After Exposure to 131I in Childhood http://jnci.oxfordjournals.org/content/97/10/724.fullこの研究で福島的に興味を引くのは、甲状腺への最低被ばく線量集団=0~15mSV、となっているところで、ここでは対象154人中16人が、甲状腺ガンになっている。またその上位の集団は16~199mSVで、579人中76人の発症。研究全体の対象は15歳以下、1998年の患者276人で、さらに1300人を比較対象(コントロール群)として、ベラルーシ、ロシアから選んでいる。ただしこの「ケース・コントロール方式」には限界があり、「疾患の発生率 Incidence、存在率 Prevalence、あるいは寄与リスクなどを求めることは出来ない。」ようだ(
http://www.kdcnet.ac.jp/college/toukei/statistics/observe.htm)。この研究の結論はEARはなく、ERR=4.5だ。199mSV以下の2集団について特記等はない。つまり先行研究を否定するような要素はなく、この領域でも直線性が保たれる、ERR=4.5ということだろう。
さらにNHKが昨年12/17に放送した
「サイエンスZERO」では、放医研の杉浦紳之氏が、「今年発表されたベラルーシのデータ」というものを出して、解説していた。
(番組文字起こし)
杉浦紳之:(ベラルーシでは)全体的に数100ミリシーベルトを超えていて、数量が非常に高いものとなっております。しかし、今回の福島では先程見たように最大が35ミリシーベルトですから、今回の緊急調査の結果を見て、我々専門家がホッとしたのは、やはり~50、この一番低いところに収まっています。ではここに、実際に甲状腺がんになった人の割合を重ねてみます。やはり、線量が増えてくると発生の割合が高くなってくる事が知られています。
安めぐみ:ですが、これを見ると、福島と同じ50ミリシーベルト以下のところでも甲状腺がんになった方がいるという事になりますが、こちらはなぜなのでしょう?
杉浦紳之:もちろん、「子どもの年齢が低いほど甲状腺がんのリスクが高くなる」という事も一つあると思いますし、もう一つは自然発生の癌がですね、甲状腺がんが、他の癌に比べて速い年齢で30歳や40歳から出るので、チェルノブイリはもう25年経っていますから、その年齢に入ってきている方が対象者になっているという事も言えると思います。
山田アナ:ここも、つぶさに見ていかなければいけないと思うんですが、
杉浦紳之:はい、おっしゃる通りだと思いますということだったのだが、この資料の元はまだ見つけていない。一応この研究で対象にした0~50mSV被曝集団2000人で、甲状腺ガン発症者の割合は0.3%、50~150mSVの2500人集団では0.4%だったと読めるが、他の研究では、こういう数字の出し方はしてはしていない。P.Jacob先生らの1999年論文のところでも書いたが、母集団は全ての0~50mSV、50~150mSV被曝者ではないので、これをそのまま「発症率」とすることは不可能だ。発症期間、調査対象の年齢等がわからないと、結局「被曝量が増えると発症率も増える」ということがわかるだけだ。大事なEAR,ERR等の数値は全くわからない。元の研究が知りたい。
思うにチェルノブイリでの研究、データは、今回の福島のような、100mSVを下回る甲状腺等価線量被曝についての詳細なものは少ないし、中心の研究対象ではない。つまりそれだけ、チェルノブイリの被曝量は大きかったし、福島の被曝量は小さいということが、言えるのではないだろうか。繰り返すが、まさに「GCRふくしま」の早野龍五先生の言葉「ここはチェルノブイリではない 福島のデータをしっかり見よう」なのだにゃ。
そして結局、これまでの研究による知見、「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第29回会合」の資料
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/siryo2-4.pdfにある7研究の、EAR=1.5~4.4(10000人あたり、1SVあたり、一年間に)からすると、福島での最大被曝量=50mSVととった場合、これだけ被曝した人が100000人いたとして、その中の年間の過剰発症(つまり放射能で甲状腺ガンになる人)は0.75~2.2人。もし100mSVの人が100000人いたとしたら、年間の過剰発症は1.5~4.4人ということになる。ただし調査方法(コホート、ケース・コントロール、エコロジカル)にはそれぞれ欠点もあり、さらにはポアソン、モンテカルロ、リニア、二次曲線といった統計のやりかた、モデルも複数にわたる。被曝時の年齢も違いを生み出す。そして甲状腺ガンは放射線に限ってみても、医療被曝等外部被曝の影響があり、もちろん放射線以外の原因もある。
唯一の「正しい数字」がビシっと出ることなどないが、傾向はつかめる。これらの数字は確かに通常の甲状腺ガンの発症に埋もれてしまい、個別例を「原因は放射能」と指摘することは困難だ。もちろんこれを「多い」か「少ない」か、「ゼロではないから避難する」、等見方や行動は自由だ。そしてその対策、ケアは無くてもよい、ということにはならないだろう。全体のガン発症に埋もれるということは、放射能と関係ありなしは別にして、福島県での全体のガン防止、ケア対策、ガン医療を向上させ、将来福島県は日本一のガン・フリー県になる。これしかないような気がする。
(あ~今回はエラク難しかったにゃ。間違いありそうなので、見つけたら指摘してくださいだにゃ。)
(追記 7/23 「まとめ」です ここだけ読んでもOKにゃ)せっかくだから、前回エントリーの「数字」も一緒にメモしておくにゃ。「備忘録」兼「まとめ」です。
注:以下特記した「LNT仮説」のところ以外、全て「等価線量」です。普段よく使われる「線量」=「実効線量」で、これは「等価線量」の1/25と考えられます。現在までの調査でわかっている 福島の内部被曝 甲状腺等価線量①広島大田代聡教授らの調査
調査日=3/26~3/30 場所=いわき市 川俣町 飯館村 対象=1080人(0~15歳)
最大等価線量=42mSV
注:「3月12日から23日までの12日間に連続的に吸入した後、24日に甲状腺線量を測定する」という仮定に基づいて計算。=前記田崎さんのサイトより。
②弘前大床次真司教授らの調査
調査日=4/11~16 場所=浪江町津島(含南相馬からの避難民) 対象=62人(15歳以下も成人も含む)
最大等価線量=33mSV
注:3月15日にヨウ素を吸い込み、被曝したという条件で計算。いつまでの積算かは不明だが、長くとも4/16(4/10?)までということになる(そこまで長くないだろう)。
なお、これらの調査が「事故直後ではない」と言う向きもあるかもしれないが、チェルノブイリでの調査ももちろん、事故直後ではない。例えばJacob先生らの1999年論文1463ページには、Dose reconstruction in Bryansk district was based on measurementsof the 131I activity in thyroids performed in the period 13May to 13 June 1986、とある。「ブリヤンスクでの被曝量は、1986年5/13~6/13にあった甲状腺被曝検査で再現した」である。ちなみに事故は4/26だった。
チェルノブイリ事故の内部被曝による、甲状腺ガン発症の研究から得られたデータ「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会第29回会合」の資料
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/siryo2-4.pdfにある、代表的な7研究(全て被曝時18歳以下が対象 15歳以下もある )によれば、
EAR(過剰絶対リスク)=1.5~4.4(10000人当たり、1Gy≒1Sv当たり、年間)
①1995年のE.Ron先生らの論文によれば、甲状腺等価線量100mSV以下の被曝量でも、被曝量と発症数に直線比例関係が成り立ち、この領域でも放射能の影響が見られる。
②1999年のP.Jacob先生らの論文によれば、甲状腺等価線量100mSV以下、平均50mSV被曝量の集団も、「甲状腺がんのリスクは統計的に有意に上昇した」。
③2011年のAlina V. Brenner先生らの論文によれば、被曝後20年経過しても、先行研究の結論は変わらない。(最新調査=2007年時点で、被曝時18歳の人は39歳になっている)
以上のことから福島では甲状腺等価線量100mSV内部被曝した子ども、若い人が10万人いたとしたら、この被曝が原因で甲状腺ガンになるのは、1.5~4.4人/一年間
この10万人の被曝量が半分の50mSVならば、0.75人~2.2人/一年間
と言えるのではないか?もちろん「だろう」「可能性がある」で、現状では50mSV被曝した人は見つかってない。またとうてい10万人いるとは思えない。なおこれが始まるのは、被曝後2、3~5年後?チェルノブイリでは発症ピークは10年後?このあたりはよく調べていません。
ICRPの「LNT閾値なし仮説」との整合性あと、ICRPのLNT仮説=「100mSV以下の実効線量被曝の場合、0.5%のガン発症(ガン死)上乗せ、閾値なし(もとは1Svあたり5%の上乗せ)」との整合性だけど、
①これらの研究のEAR(上乗せ値)は、等価線量100mSVを実効線量に直した場合、4mSVで年間10万人に最大4.4人上乗せ、となる。世界的甲状腺ガン発症は年間10万人あたり2人(男の最大値です、女は8。ここを変えてもあまり変わりません)=0.002%だとすると、この発症上乗せで6.4人となる。これは発症率=0.0064%になるということだが、上乗せ分は0.0044%で、0.5%よりはるかに小さく、少なくとも「ICRPのLNTは低く見積もっている、甲状腺内部被曝は本当はもっと危険だ!」とはならない。
②E.Ron先生、P.Jacob先生らによって、甲状腺に限っては、等価線量100mSV以下の低線量でも、「閾値なし」らしいデータが、あがってきた。
ということではないだろうか。
「反原発」がよく叫ぶ、「内部被曝の影響はわかっていません!」ってことはないのだと思うがにゃ~。