ICRP通信サイト開設 NHK「低線量被曝 揺らぐ国際基準」がBPO提訴 「慰霊碑」場面もインチキ?
6月10日、ICRP(国際放射線防護委員会)通信のサイトが開設されました。
これは「ICRP日本国内委員が、ICRPに関連した国内の動きについて発信するサイトです」
http://icrp-tsushin.jp/index.html
ここには6月14日に、7月7・8日(来週にゃ)に伊達市で行われる「第3回福島ダイアログセミナー」のプログラムが載せられました。要注目にゃ。
「第3回福島原発事故による長期影響地域の生活回復のためのダイアログセミナー 食品についての対話」の目的=「今回の第3回ダイアログセミナーでは、2012年夏の状況を踏まえ食品について、消費者と生産者、さらに仲介する流通関連からの視点で、問題点を理解するためのものである。3者の視点で明らかになった問題を踏まえて、状況の改善に向けた対話を行う。」です。今回はエサだにゃ。
また協力と援助=伊達市、福島県、放射線安全フォーラム、AFTC たむらと子どもたちの未来を考える会、福島のエートス、福島県立医科大学、ベラルーシ緊急事態省チェルノブィル部、経済協力開発機構・放射線防護公衆衛生委員会、フランス放射線防護・核安全研究所、ノルウエー放射線防護局、フランス原子力安全局です。ジャック・ロシャールさんも、またいらっしゃるにゃ。
7日のプログラムの一部ですが、
10:30 – 13:00 セッション1:過去の教訓と現状と問題点(途中で15分の休憩)
大気圏核実験とチェルノブイルによる北欧サーミの人々のセシウムレベルとそれへ
の対応:L. スクテルード(ノルウエー)
大気圏核実験による日本人のセシウムレベル:放医研
陰膳測定による食品のセシウム:コープ福島
WBC による食品由来の内部被ばく:福島医科大学
ベラルーシにおける住民参加型の対応:F. ロリンジャー(フランス)
生産者の立場からの現状: JA 伊達みらい
消費者の立場からの現状:NPO 田村と子供たちの未来
福島で生きる者としては興味津々です。これらがまとまった形で見られると、いろいろハッキリするにゃ。
さて「北欧サーミの人々」で思い出すのが、去年12月28日にNHKで放送されたトンデモ番組「追跡!真相スクープ 低線量被曝 揺れる国際基準」にゃ。この番組については各方面から批判が相次ぎ、ここでも数回書いていますが、
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-56.html
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-59.html
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-60.html
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-entry-80.html
このICRP通信サイトに同じ日(6/14)、「放送倫理・番組向上機構(BPO)への提訴状」が公開されました。これはこのトンデモ番組に対して、去る5月7日にICRP日本委員が行った「提訴」の内容が書かれています。
「提訴状」の内容はICRPによるものなので、ICRPに関する問題に絞られていますが、非常に興味深いものにゃ。中でもいくつかあがっている、ICRP委員が語った録音内容の「改ざん」「捏造」等は、これが事実ならば「公共放送」の根幹を揺るがす問題だにゃ。DDREF=線量・線量率効果係数の話は、用語が難しい印象なのだが、広島・長崎の原爆データ(=一瞬で大量被曝)を用いて、低線量(200mSV以下かにゃ?)少しずつ被曝でのガン死率を予測する場合、「一発大量被曝より少しずつ被曝の方が被害が少ない」と考える。DDREF=2とは、低線量被曝においては広島・長崎データから正比例で推定される数値に、1/2をかける。DDREF=4ならば、1/4をかける(これでいいのかにゃ?違っていたらご指摘お願いいたします)。で、「問題」の例を以下に引用すると、
チャールス・マインホールド博士への取材における言葉の言換えは、もっとも悪質である。博士への取材では、冒頭においてアナウンサーは、「低線量被ばくのリスクを引き上げなかった背景には、原発や核関連施設への配慮があったと言います」と述べている(番組19 分50 秒)。そして「原発や核施設は、労働者の基準を甘くして欲しいと訴えていた」、「基準がきびしくなれば核施設の運転に支障が出ないか心配していたのだ」などが字幕で示されている。
この場面での同博士の発言は、”That’s one of my problem is that people in the industry tends to want to keep the limit high.”, “That’s why they decided to put out their documents, Oh, 1990, about then, which the Department decided what they wanted”, “But they have to be careful, because the things I said earlier, you got to be able to do the work”である。これらのマインホールド博士の発言は、「私にとっての問題は、原発企業の人々は、線量限度を高いまま維持してほしいと望んでいた」。「そのため、彼らは報告書を出すことにした。オー、1990 年ころ、Department
(Department of Energy、米国エネルギー省)は、彼らが何を望むかを決めた」、「しかし彼らは注意深くなければならなかった。というのも私が言ったように、仕事はおこなわれなければならないから。」となる。意味が通じない部分はあるものの、当時の原子力関連組織でいろいろな思惑があったことを、マインホールド博士は、率直に語っている。
このあと、女性アナウンサーは「マインホールド氏は、自らも作成に関わったエネルギー省の内部文書を取り出しました。1990 年、ICRP への要望をまとめた報告書です」(番組20 分3 2 秒)。そしてこの報告書は「低線量のリスクが引き上げられれば、対策に莫大なコストがかかると試算し、懸念を示していました」と述べている。しかし画面に示された”Final Report to the Secretary of Energy: Implications of the BEIR V Report to the Department of Energy”の報告書は、エネルギー省が1990 年にまとめた報告書で、ICRP への要望書ではない。またこの報告書は、秘密めいた内部文書ではなく、誰でも入手でき、また図書館に行けば自由に閲覧できる50 頁足らずの報告書である。これは、表題にあるように、1989 年に出された米国科学アカデミーの報告が米国エネルギー省にどのようなインパクトを持つかを評価してまとめた報告である(9)。
この報告を入手して検討したところ、冒頭の「まとめ」には、”The DOE should continue to participate in the technical review and comment process associate with the BEIR V report, the ICRP draft recommendation and any forthcoming recommendation from the NCRP”との記載がある。当時すでに刊行された米国科学アカデミーのBEIR V 報告や、当時ドラフト段階であったICRP の1990 年勧告、そしていかなる他の組織の勧告についても、協調して検討をすべきとの方針を、エネルギー省に対して進言している。しかしこの報告書を詳細に調べても、ICRP への要望はどこにも見当たらない。アナウンサーは、この場面で「マインホールド氏は、アメリカの他の委員とも協力し、引き上げに強く抵抗したといいます」(番組21 分05 秒)としている。そしてマインホールド博士は、"Warren Sinclair and Michael Fry, who are both again their, they are...they said it should be two to four. And why...the reason was that epidemiologists who just kind of used really the guesswork to come down from the Japanese survivor trend.”、「ウォレン・シンクレアーとマイケル・フライ、彼等二人は(DDREF が)2から4であると主張した。なぜなら、疫学者は日本の被爆者での傾向から単に推定でものをいっているからであった」と述べている(ネコ注:ここは番組で。ウォレン・シンクレアーとマイケル・フライ両博士は、当時の世界的な放射線生物学の研究者である。そしてこれは、放射線を一気に受けた原爆被爆者のリスク値からごく低い線量率のリスク値を推定しようとしていた疫学研究者に対して、これら両名が、2から4のDDREF 値を用いて低線量リスクを評価すべきと主張した経緯を述べている。これは、DDREF 値をいくらにするかというサイエンスの議論である。
(引用終わり)
つまりNHKは、マインホールド博士は「原発や核関連施設への配慮で、被曝基準の引き上げに抵抗した」としているが(もしかして「衝撃の告白」ってことかにゃ?)、それを裏付けると匂わせた「1990 年、ICRP への要望をまとめた報告書です」には「要望」などないし、秘密の内部文書でもない。またNHKが「マインホールド氏は、アメリカの他の委員とも協力し、引き上げに強く抵抗したといいます」(の裏づけ)として次に流した発言は、「シンクレア、フライ両博士は、(DDREFを考慮しない疫学系学者に対し)科学的見地からDDREF値は2~4がいいと主張した」って言っただけ。、原発側に立って被曝基準引き上げに抵抗なんてしてない。
この「提訴状」は、buvryさんや、田崎さん、安井さんのサイト等も見ながら読むと、実際の番組構成もよく見える。それにしても皆さんさすがです。(ネットにアップされていた動画は、現在削除されている。)
「提訴状」の最後は、こうなっている。
今回取材を受けたICRP 関係者は、自分の説明が、意図とは異なる意味で報道されたことに精神的打撃を受けている。添付の手紙にあるように、クレメント氏は、西脇氏が行った行為に失望している。また今年90 歳のボー・リンデル博士も、今回の番組で、自分の発言が意図しない内容に改竄されたことに、違和感を覚えておられる。さらにマインホールド博士は、今回の取材についての問い合わせに強い拒否反応を示しておられ、最近は本件についてのメールに返事をいただけない状況である。精神的苦痛の強さが窺える。
番組の、虚偽、隠匿、捏造による主張は、許されるべきではない。
お年寄りをだまかしてはイカンにゃ。あともしかして「日本人は英語わからない」とナメてたんじゃないだろ~な~。BPOへの提訴になった以上は「結論」が出る。この番組の問題はち~とも終わっていないにゃ。
(7/2追記)
コメント欄に、「七さん」から更に情報いただきました。ありがとうございます。
leaf_parseleyさんがyoshisatose さんのツイートからまとめた、
「NHKの追跡!真相ファイル 「低線量被曝 揺らぐ国際基準」にあったもう一つの事実歪曲の疑い」 です。
(なおyoshisatoseさんは、この番組が放送された頃にも発言されていた、スウェーデン・ヨーテボリ大学経済学部博士課程在籍の先生です。ブログ=「スウェーデンの今」
3/30にはトンデル博士に会って、本音を聞いています。= http://togetter.com/li/292515 トンデル氏を「反原発正義軍」の「福島潰し外人部隊」と誤解し、「トンデモ」などと書いて、申し訳なかったです。)
その「もう一つの事実歪曲の疑い」ですが、例のNHK番組に登場した、米国イリノイ州の原発の近くの町にある「慰霊碑」が、
「あの慰霊碑は、米イリノイ州のCoal City という町にあるそうで、(http://t.co/S91ItOr3 )水子や乳幼児の死者をまつるために作られたものだとのこと。番組中の説明が示唆する、原発のために亡くなった子どもたちの霊を祀る慰霊碑、というわけではないようです。」
ということにゃ。
この慰霊碑のHP=http://www.angelsofhopeinc.org/memorialGarden.htm
(このページのネコ訳)
The Angel of Hope Memorial Garden was dedicated to the Village of Coal City, Illinois, on October 7, 2006, as a place for those suffering the loss of a child to honor the child's memory.
希望の天使記念庭園は、2006年10月7日にイリノイ州のコール・シティ村に、子供を失って傷ついている人々が、子供の思い出を讃えることができる場所として、提供されました。
Located in Campbell Memorial Park , the highlight of the garden is an angel monument surrounded by walkways paved with bricks that can be purchased with a special message in memory of a deceased child of any age, from conception to adulthood.
この庭園はキャンベル記念公園の中にありますが、中心になるのは天使像で、レンガの歩道に囲まれています。このレンガには、妊娠中から成人までの全年齢の、亡くなった子供の思い出に対するメッセージが刻んであり、買うことができます。
Bricks will be placed in the spring and fall of each year, with the order deadline for spring placement on February 1 and for fall placement on August 1.
レンガは毎年春と秋に設置されます。春の設置申し込み締切日は二月一日、秋は八月一日です。
On December 6 - at 7 pm, each year, Angels of Hope, Inc., hosts a Candlelight Remembrance Ceremony to which the public is invited to leave a white flower at the base of the angel to honor the memory of a child of any age.
毎年12月6日の午後七時、「希望の天使協会」は「キャンドルライト・リメンバランス・セレモニー」を開催します。ここでは招待客が、全ての年齢の子供の思い出を讃えるために、白い花を天使像のもとに捧げます。
It is our hope that the annual vigil will provide a place for grieving families to unite and find strength and comfort in one another.
毎年恒例の徹夜の祈祷によって、ここで悲しんでいる家族が結束し、お互いに強さと慰めを見出すこと、それが私たちの望みなのです。
(以上)
なるほど、「原発」だの「ガン」だのの話は、どこにもないが、番組ではこの「慰霊碑」の場面は、「しかし近くの町では子供たちがガンなどの難病で亡くなっていました。6年前に建てられた慰霊碑。足元のレンガにはこれまでに亡くなった100人の名前が刻まれています。これが亡くなった息子の写真です。 この痛みは誰にも伝えずに抱えてきました」だった(文字起こし=http://togetter.com/li/234049 参照)。
そりゃまあ、この「希望の天使」像は「すべての」死んだ子供のためだけどね。そんなこと言ったら、現代のカトリック教会のミサだって、「宗派を問わず全ての死者」のために祈っているのではないかにゃ?
すごい番組にゃ。
(7/2もう一つ追記がありましたが、長くなったので次のエントリーにしました。)