デマ攻撃は前回いくつか書いた12月14日以後にも、いろいろあったにゃ。
12月17日にはこんなのがあった。「【これは広めてほしい】20キロ圏外ギリギリの農家さんの牛が目や穴と言う穴から出血しているのに政府は出荷停止命令を出さずに、食肉として出回ってしまったそうです。」
例によって
http://togetter.com/li/228995 ではボコられているが、出所はYUKARINNG1222。どうも聞いた事があるにゃと思ったら、
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com/blog-date-201108.html のデマの出所と同じだった。もうバカバカしいが、「反原発」デマ流しは反省せず、次々流し続ける。病気みたいなものだにゃ。なおこの人物は
「除霊」なんぞで喰っているらしいので、「不安を煽る」と儲けにつながるのかも。しかしこんな人は、最早何の影響力もない。やはり困るのは大手「マスゴミ」のデマだにゃ。
テレビでは「ガチバトル」とか「朝まで~」とか山本太郎祭りだったが、かえって無知が暴露されたようだ。しかし最大の悪影響デマ番組は、NHKの「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」(追跡!真相ファイル 12月28日放送)だったにゃ。録画は
https://www.dailymotion.com/video/xncvsv にある。
番組HP=
http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/shinsou_top/20111228.htmlには、「1980年代後半、ICRPが「政治的な判断」で、被ばくでガンになるリスクを実際の半分に減らしていた事実が浮かびあがってきた。当時ICRPには、原子力産業やそれを監督する各国の政府機関から、強い反発が寄せられていたのだ。そしていま、世界各地で低線量被ばくの脅威を物語る、新たな報告や研究が相次いでいる。」と書いてあるから、「ねらい」はICRP批判だろう。しかし「穴」が多い番組だ。
(第一章の概要)スウェーデン北部に住むサーメ人(トナカイの遊牧をしている)は、チェルノブイリ事故後の年間被ばく量は0.2ミリだった。しかしいま、年間のガン発症が34%増加している。食品の基準はキロ当たり300ベクレルで、日本よりきびしい。また事故後10年間の積算被ばく量は10ミリ以下だった。コメント=「ICRPがほとんど影響ない、と言っている低線量でも、ガンになる人が増えていたのです」。トンデル博士「被ばく積算量は外部被ばくだけでなく、体内に取り込んだ食品によっても影響されるのです。」(字幕=「リスクは外からの被ばくだけでなく、内部被ばくに左右されるのです」)
最初のサーメ人のチャプターではこんな話だが、「事故後の年間被ばく量は0.2ミリ」なのに、「事故後10年間の積算被ばく量は10ミリ以下」と言うからには、後者にだけ(数ミリの)「内部被曝」が含まれるのだろうか?トンデル氏の言葉で結ぶならば、使われているデータは「内部被曝」と「外部被曝」をキチンと表さなくてはならない。また「ICRPがほとんど影響ない、と言っている低線量でも、ガンになる人が増えていたのです。」というコメントは、ガンと放射能の因果関係の「裏が取れていない」のだから危険な表現だ。即「低線量被曝でも、それが原因でガンが増えている」と解釈されるだろう。最初からとにかくICRPは怪しい、と言いたいネライは見えるが。
番組がここで言いたいことは、
①ICRPは「外部被曝」しか問題にしていなくて、「内部被曝」は無視している、なのか?
②「内部被曝」による被曝について、ICRPのガン死率数値は正しいが、測っていなかった、なのか?
③「内部」も「外部」も関係なく、ICRPのガン死率数値そのものが間違っている(低い)、なのか?
④「内部被曝」と「外部被曝」の影響は質的に異なり、後者の危険度は前者をはるかに上回る、なのか?(これはかなり?だから、更なる裏付けが必要)
このあたりはゴチャゴチャだ。信夫山ネコには、このままでは、サーメ人のガン増加(この34%が正しいとして)は放射能以外の要因を疑ったほうが合理的に見えるが、制作者は本当は③&④で、さすがにこれだけのデータでは、こうストレートには言えなかった?いや、全部か(しかしICRPの数字はガン発症でなく、ガン死だったのでは?まあ、ガンにかかっても死ぬのは50%とか考えればいいが、これもゴチャゴチャか)?
ちなみにスウェーデン在住の方のブログ、
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/40ff41f6ef9ce6da50cffd378d430701を見ると、当地の行政・公的機関によればサーメ人の最も高く被曝したグループでは、セシウム137について、内部被曝は初年度は2.2ミリだった。また50年間では13.5ミリ程度と予想されているいうことが判る。また食品の基準は事故一か月後、300ベクレルと定めたが、一年後にはトナカイの肉、きのこなどは1500ベクレルになったそうだ・・・、
いやいや、さらに新しいページに詳しくありましたにゃ。
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/6c768f8d028351291a58069838c7d812この「信夫山ネコ~」でも、過去に
「ECRRなんか怖くない」でトンデル氏の説に触れている。素晴らしいbuvery氏のブログと、大変お世話になり、今はもう消えてしまった福島の科学者Ketupa blakistoni氏のブログから学んだことだった。トンデル氏のガン死増加説は、補正に次ぐ補正で、突っ込みどころ満載だったにゃ。なお年末のある日、信夫山ネコがツイッターで結構取り上げられていたが、この関連だったようだ。ketupa氏のブログで「トンデル氏自身が今年1月に書いた論文で、自分の2004,2006年の説を否定した(=線量とガンの発生率に相関はない)という「衝撃の事実」が明らかにされている」と書いたわけだが、この部分は
http://d.hatena.ne.jp/kanjinai/20110921/1316573069 には原文も出ていて、「明白な、そして期待されたような、直線的な被曝との相関関係は見いだされなかった」と訳されている。もっともトンデル氏の過去の論文のタイトルには「?」がついているので、「自説を否定した」というよりは、「未だ自説に結論を見いだせていない」なのだろう。
第二章は米国イリノイ州の、原発近郊で脳腫瘍になった、気の毒なセーラさんのVTRリポート。セーラさんの親(小児科医)は原発周辺の地域で、過去20年間で脳腫瘍や白血病が30%増えているとか、小児ガンが2倍とか言っているが、そもそも原発からの距離、「犯人」と疑われる水の放射線量、被曝量とかガン発症率とかが出てこない(原発の名前や、セーラさんの住んでいる地域の名称すら出ていないと思う。ズサンだ)。スタジオに戻って女性リポーター(
追記:室井佑月っていう作家だって、シラナカッタ。あんまりアレだからマジでただのリポーターだと思った)が、「(低線量被曝でも)セーラさんみたいにかかってしまう人もいるわけで。だから「リスクは少ない」という言い方は、逆にして言うと「リスクを背負い込む人もいる」ということですね。確実に被害者は出るわけですね、」とか言っていたけど、この脳腫瘍と放射能の因果関係は裏付けされていないので、セーラさんが「確実な被害者」とは言えない。このまとめ方には大いに疑問がある。(
追記:大体これじゃ「飛行機に乗ると、確実に犠牲者が出るわけですね(マジ顔)」と言うより、低次元ではないか。何を伝えたいのか?ど~でもい~けど)
14分あたりから、ディレクターがグラフを指さして「ICRP基準では100ミリでガン死増加=0.5%なので、1万人で50人、100万人で5000人が余計にガン死リスクを負う」等と言っているが、コメント欄にもあったが、これはこの一万人とか100万人の「母集団」の規定やガン死率が仮定されていないから誤解しやすい。
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/damage.html#2ICRP によると、
放射線をじわじわと被ばくした場合、 生涯のあいだにガンで死亡する確率が、1 シーベルト(1 Sv)あたり 5 パーセント上乗せ(うわのせ)される 。「ガンで死亡する確率の上乗せ」は被ばく量におおよそ比例する。
・・・とかいろいろ書きかけたが、要するにここは
buvery氏の「NHK追跡!真相ファイルについて」に尽きるにゃ。
NHKは集団実効線量で癌死を勝手に計算している。
NHKの『100mSv、100万人で5000人死亡』という計算は、そもそも、100mSvを被曝する人は作業員以外には一人もいない現実とかけ離れた仮定であるという問題がありますが、それに加えて、ICRP 103でまさしく『集団実効線量を疫学の推計に使ってはならない』と警告していることをそのまましています。こういうことをしている人はこのディレクターの方だけということではなく、たくさんいます。
私に言わせると、『集団実効線量』はLNTの論理的な帰結なので、最初から『低線量低強度被曝でLNTが成り立つ』という主張自体が間違っていると認めた方が良いのだと思います。そもそも、インドのケララ州や、中国の広東地方の高線量地帯で癌の発生率が上昇していないことを考えると、地球上にある『天然での高線量以下』(だいたい≦10mSv/年)で、ゆっくりと被曝する場合にはLNTは成り立っていません。(以上太字=引用)番組ではさらに被曝が100ミリより低い場合について、「少しずつ浴びていく場合は、細胞が放射線に対して抵抗力を持つとか、そういうような理由で (ICRP説よりも)もっと低いのではないかという説もある~」等と言っているが、そもそもICRPは100ミリ被曝で0.5%上昇というのは、「緩慢な被曝」の場合と言っている。この時点で、ディレクター氏はこれは見落としているらしいことが判るが、これは重大問題だ。
この番組については、もう既に様々な方々の突っ込みがある。後半は英語インタビューの訳の問題も大きい。先のbuvery氏や、学習院大教授の田崎晴明氏、togetterなどの問題点指摘などをごらんください。
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20120105http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/d/1112.html#29http://togetter.com/li/234209池田信夫氏は「捏造」と言っているにゃ。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51765226.html最もわかりやすく、大きな疑問は、この番組が後半で、ICRPが低線量被曝の影響を半分に「値引き」している、と「スクープ」したつもりになっていることだにゃ。これは先に書いたように、そもそもICRPは200ミリ以下でのガン死増加を「緩慢な被曝で~」と言っていて、原爆みたいに「一気に浴びる」場合と区別している。そのために半分に見積もっている(その係数がDDREF)わけで、隠ぺいでもねつ造でもない。(先に書いたように)単に番組制作者が知らなかっただけだろう。アホな話だ。
最後近くではこの番組は科学から離れて、「ICRPは各国の原子力産業推進側から資金をもらっているから、偏っている、政治だ」てなことを言っているが、それは「NHKは国会で予算承認されなくては、事業運営はできないので、常に政府与党側に偏っている」と言うのと同じだにゃ。これはあまりにも大ざっぱな「反原発カルト的」見方ではないか?NHKにだって「郡山の朝ごはんから、セシウムは出なかった」と言った、「あさイチ」があれば(それなのになぜ山本太郎が出るか~?)、この番組のような「危険説寄り」もある。そう簡単じゃないにゃ。(朝日新聞も危険煽りの「プロメテウスの罠」を続けているけど、12月26日朝刊には東大の中川恵一准教授の、「福島でがんが増えることはあまり考えられないと思っています。それよりも野菜不足が危ない」という記事を載せてたにゃ。中学生、高校生向けの
「ドクタービジット」にゃ。)
例えばトンデル氏の説やイリノイ州の話を、もっと徹底的に「科学と論理」で検証することはできないのだろうかね~?「疑われる」で煽って、最後は論理を捨てて「涙ながらに訴える」で終わるのは、古くさい日本の「社会派ドキュメンタリー」とやらで見飽きたにゃ。
1/10追記:全く違ったネタで、bloomさんから教わった
http://www.louis-pasteur.or.jp/Ptsuushin2012.pdf は必読です。分子免疫研究所の藤田哲也氏の見解だが、トンデル氏の研究と、その悪用のされ方について、非常によく書かれている(肥田舜太郎氏の「チェルノブイリ事故で、東北地方に乳がん増加」の怪しさについても)。トンデル氏の説は
「チェルノブイリ事故2年から4年間は、癌と診断された人の数は平時に比べて有意に増加した。ただし、この間にも甲状腺癌や白血病が増えたという証拠はない。しかしこれに続く8年間には、どのタイプの癌症例にも有意の増加はなかった」だそうだ。おいおい、NHKも「悪用」じゃないのか?
もちろん信夫山ネコは、NHKだって迂闊で間違えることがあるのはよく承知している
。「福島県議選候補者を応援した山本太郎の、選挙期間中出演」を見ればよくわかる。「追跡!~」のプロデューサーは
NHKの春原氏という「エース級」らしいが、ホントかね~、このズサンな内容で。
(あまりに長くなったので、続きは次エントリーに移しました)